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実践編


実践編


未払賃金請求書

退職後に、未払賃金を請求する場合の請求書面文例です。
勤めていた企業から「退職されて損害が生じた」「人手が足りなくて迷惑を受けた」「1ヶ月以上前に言わなかった罰金」などの理由で、実際に労働した正規の対価を支払ってもらえない場合があります。

なかには、別途に損害賠償請求の書面を送りつけられるケースもあります。
しかしながら、民法上は、労働者からの退職要求は、その2週間前までに申し出をすれば良く、2週間以内の退職であっても、単に正規の月給ではなく日割計算される、等のデメリットを負うに過ぎません。
労働者というのは、企業の指示に従い、指揮監督下で働いているに過ぎませんので、原則として、労働者のミスによって生じた損害は企業が責任を負うべきものであり、余程悪質な故意で損害を生じさせたような場合でない限り、労働者が、退職したことによる損害賠償義務を負う可能性は、滅多にありません。
事前に就業規則に罰則の定めがある違反行為に抵触した場合、減給処分は、月給の1割が限度となります。

また、労働基準法上、退職や無断欠勤などに対する罰金などを予め定めることは禁じられていますし、仮に損害や前借りなどがある場合であっても、賃金と相殺することは禁じられています。


労働基準法 第16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

労働基準法 第17条(前借金相殺の禁止)
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

関西精機事件(昭和31年11月2日 最高裁 判決)
「労働基準法24条1項は,賃金は原則としてその全額を支払わなければならない旨を規定し,これによれば,賃金債権に対しては損害賠償債権をもつて相殺をすることも許されないと解するのが相当である。」

日本勧業経済会事件(昭和36年5月31日 最高裁 判決)
「労働者の賃金は,労働者の生活を支える重要な財源で,日常必要とするものであるから,これを労働者に確実に受領させ,その生活に不安のないようにすることは,労働政策の上から極めて必要なことであり,労働基準法24条1項が,賃金は同項但書の場合を除きその全額を直接労働者に支払わねばならない旨を規定しているのも,右にのべた趣旨を,その法意とするものというべきである。しからば同条項は,労働者の賃金債権に対しては,使用者は,使用者が労働者に対して有する債権をもつて相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは,その債権が不法行為を原因としたものであつても変りはない。」

日新製鋼事件(平成2年11月26日 最高裁 判決)
「労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの。以下同じ。)24条1項本文の定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは,使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し,もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ,労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから,使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが,労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては,右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは,右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である(最高裁昭和44年(オ)第1073号同48年1月19日第二小法廷判決・民集二七巻一号二七頁参照)。もっとも,右全額払の原則の趣旨にかんがみると,右同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は,厳格かつ慎重に行われなければならないことはいうまでもないところである。」

なお、不当解雇または不当な雇止めをされた場合には、本来であれば得られたはずの賃金相当額を逸失利益として請求することが出来ます。
この逸失歴の額というのは、裁判においては、通常、再就職するまでに要する期間分を目安として認定されます。
おおむね3ヶ月~6ヶ月分の賃金相当額というケースが多く、専門技術職の場合には、さらに長くなる場合もあります。




未払賃金等請求通知書

令和●年●月●日


被通知人
 ●●県●●市●●町
 株式会社●●●●
 代表取締役 ●● ●● 殿
通知人
 東京都●●区●●○丁目○番○号
 甲野 健一


 冠省。
 早速ですが、以下の通りご通知させていただきます。
 私は、貴社から雇用され、令和●●年●●月●●日より令和●●年●●月●●日まで、社員として労務を行っておりました。
 給与の支払は、毎月末日締めの翌末日払いとなっておりました。
 しかしながら、今般、退職後の●月分(●月末日支給分)が支給されておらず、不払いとなっており、生活を維持することが困難な状況になっております。
 つきましては、労働基準法第23条に基づき、本書面到着後7日以内に、未払賃金全額をお支払い頂けるよう、請求させて頂きます。
 また、あわせて、給与明細と源泉徴収票も、私の自宅宛、郵送していただけますよう、お願いします。
 万が一お支払いが頂けない場合には、前記の未払賃金元本とあわせて、所定の遅延損害金(支払うべき日の翌日から商業使用人として年6%、退職の翌日からは賃金の支払の確保等に関する法律の定めにより年14.6%)、および労働基準法第114条に定める付加金(未払元本と同額の金員)を加算して、労働審判申立または民事訴訟などの裁判手続き行うと同時に、労働基準監督署への労働基準法違反申告書の提出または告訴状の提出なども並行して行なう所存でありますので、申し添えます。
 なお、賃金の不払いは、労働基準法第109条により、最高で懲役6ヶ月の刑に処せられる犯罪行為となる虞がありますので、ご注意下さい。
 最後に、今後の連絡事項等は、書面のみとし、私や私の家族等への直接折衝はご容赦下さい。
 万が一、この申し出に反して直接折衝などをされた場合、強要罪(刑法第223条)や業務妨害罪(刑法第233条、234条)で刑事告訴する場合がありますのでご承知おき下さい。

 以上、よろしくお願い申し上げます。

草々